ヤマタノオロチ退治から何日か経ったある日。
高天原(たかまがはら)のアマテラスの部屋をオモヒカネが覗いた。
ヤマタノオロチ退治から何日か経ったある日。
高天原(たかまがはら)のアマテラスの部屋をオモヒカネが覗いた。



アマテラス ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
スサノオが面会をしたいと、そこまで来ているんですけど ・ ・ ・ どうします?





えっ??全然気づかなかった。この前は稲妻を鳴らしながら来たのに ・ ・ ・





まぁ、いいわ。通してあげて。





はい。





ネェちゃんっ!!





バカッ!みんなの前では御姉様って呼べって言ったじゃないっ!!





あ、悪りぃ、オネーサマ。
それより俺、好きな人ができたんだ!!





はぁ?あんた、そんな事を言うためにここまで来たわけ??





んなわけねーだろ。
俺だってそんな暇じゃねぇんだから。





知らないわよ ・ ・ ・ じゃー何??





あぁ、そぅそぅ。これをアマテラスおねーさまに納めようと思って ・ ・ ・ ・


スサノオは細長い木箱をアマテラスに手渡した。それを開くと、手触りの良いさらさらした布に包まれ、白銀に輝くとても美しい剣が収められていた。
ヤマタノオロチ退治で手に入れた『草薙の剣』だ。



わぁ、すごい ・ ・ ・ ・ 立派な剣。
これ、もらっちゃっていいの?





あぁ、もちろんだ!!!
俺が、高天原でやっちまった罪は消えないけど ・ ・ ・ちょっとでも償いたいんだ。だからこの剣、もらって欲しくて。





そう ・ ・ ・ ありがと。
それじゃあ、遠慮無くいただくわ。





そうか!よかった!!





クスっ、にしてもあんた、すごい変わり様ね。きっと素敵な人と出会えたのね。





あぁ!クシナダは最高の嫁だっ!





・ ・ ・ は?今、何て??


アマテラスは口をポカンと開けてスサノオを見た。



えっ?ヨメ??あんた、結婚したのっ???高天原を出てからまだ何週間も経ってないじゃない!!





ハハッ!
一目惚れだからな!!





いやいや、一目惚れだからと言って、展開早すぎでしょ。結婚ってそんな一瞬で決まるもんなの??まぁ、幸せそうだから別にいいけど ・ ・ ・
でも、なんだろう。このやるせない感じ。





そ ・ ・ ・ ・ そうなの。
まぁ、とにかく良かったわ。おめでとう。





おぅ!ありがとっ!!





・ ・ ・ あんたを高天原に帰すことはできないけど、いつでも応援してるから。





あぁ!!ありがとなっ!!
・ ・ ・ そんじゃ、俺、出雲に帰るわ。サヨナラだ。世話んなったな、ネェちゃん!!!





うん ・ ・ ・ ・ ・ ・ バイバイ。元気でね。





あぁ、ネェちゃんもなっ!!


スサノオは、用が済むとさっさと出雲に帰ってしまった。弟を追放してから、ずっと気にかけていたいたアマテラスは、彼の成長と活躍が素直に嬉しかった。
スサノオが置いていった草薙の剣を見ると、自然と笑みがこぼれる。



よかったですね。元気そうで。


そんなアマテラスの笑顔を見て、オモヒカネが声を掛けた。



うん ・ ・ ・ ・





・ ・ ・ ・ ・ ・ でも、
先越されちゃいましたね。





黙れ、メガネ。





ゴメンナサイ。


それから数ヶ月が経ち、話は地上の出雲に戻る。
朝っぱらからハイテンションのスサノオが寝室の扉を勢い良く開いた。



おい!クシナダ起きろ!!
お前に見せたいモンがある。





ん~~ ・ ・ ・ 何よ ・ ・ ・ ・
まだ日の出前じゃない。





出かける準備だっ!!





へっ??うわっ!
ちょっ ・ ・ ・ ・ 何よっ??


スサノオは、クシナダヒメを無理矢理起こすと、彼女を担いで斐伊川の川縁を下へ下へと進んだ。



ちょっと!!
ねぇ、どこまで行くのよっ!?





・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ここだ。
ここを抜けると ・ ・ ・ ・


そこは、辺り一面に緑が生い茂る広々とした場所だった。



わぁ~ ・ ・ 綺麗なところ ・ ・ ・ ・ 清々しい気分になるわね ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・





お前もそう思うか?
俺も初めてココに来た時『なんて清々しい場所なんだ』って思ったんだ!だから、俺はこの土地を"須賀"と名付けた!!





うわっ ・ ・ ・ 単純っ!!


クシナダヒメが辺りを見回すと小高い丘の上に大きな宮殿が見えた。



この辺の地主さんかな??


と眺めているとスサノオが



こっちだ。


と言って彼女の腕を引っ張った。
それは、幾重にも垣を巡らせた見事な宮殿だった。スサノオはズカズカとその中に入って行く。



また不法侵入かよ。


と思いながらクシナダヒメも後に続いた。しかし、家の中には誰もおらず、シンとしている。



わぁー素敵な宮殿ね ・ ・ ・ ・
新築の匂いがする ・ ・ ・ ・





俺が建てた。





はいっ!?


スサノオは得意気に笑っている。



ここに、家族で住もう。両親も呼んで、アシタヅチはここで長老になりゃいい。





うそ ・ ・ ・ こんな立派な宮殿で?
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ すごい。しばらくコソコソと出歩いていると思ったら ・ ・ ・ ・





驚いたか??





うん、とっても素敵!
・ ・ ・ ・ ・ ありがとう、スサノオ!!


宮殿の縁側からは、壮大な山々が一望でき、日の出と共に朝雲がもくもくと立ち上がってくるのが見えた。



八雲立つ 出雲八重垣 妻籠みに 八重垣作る その八重垣を ・ ・ ・





・ ・ ・ 何それ?歌??
らしくないじゃない。





短歌だ。いいだろ??たまには。





ふふっ、そうね。案外才能あるかも。





へへっ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
幸せになろうな。クシナダ。





・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ うん。


クシナダヒメは満面の笑みを浮かべてうなずいた。
こうしてスサノオは日本最古の短歌を残し、家族と共に、いつまでもいつまでも幸せに暮らしましたとさ。
めでたしめでたし。
