天井の梁にしなやかな身を潜めていた鷹丸は、
音もなく身をひるがえし
闇からするりと降り立つ。
まるで夜そのものが形を成したような動きに
澄音は気づく様子もない
ただ祈り続ける彼女の姿に
鷹丸の目が鋭く光った。
月明かりが薄く地を照らす夜半の頃、鷹丸は一匹、静まり返る教会の奥へと忍び寄りました。
その目指す先は、小屋――あの翡翠色の猫娘が描かれた絵画が秘かに保管される場所にございます。
夜露に濡れる庭を足音ひとつ立てずに進み、目的の小屋へとたどり着き、小屋の隙間から漏れる灯りに目を凝らす。
そこにいたのは澄音であります。
澄音は昨日と同じように、静かに絵画の前に膝をつき、十字架を握りしめて祈りを捧げておりました。
やっぱりいたな…
天井の梁にしなやかな身を潜めていた鷹丸は、
音もなく身をひるがえし
闇からするりと降り立つ。
まるで夜そのものが形を成したような動きに
澄音は気づく様子もない
ただ祈り続ける彼女の姿に
鷹丸の目が鋭く光った。
お嬢さん、そんな絵に、何を願うってんだい?
あ、あなたは昨日の?
なぁ、澄音。なんでまた、この絵に祈っているんだ?
この場所は立ち入りが禁じられているんだろ、それに、
こんなことがばれたら罰を受けるんじゃないのか?
はい…ですが、この絵がそんな恐ろしいものだなんて、私にはどうしても思えないのです。
私にできることは、ただ祈ることくらいで…
…まぁ、偽物だってことは黙っておくか
なぁ、澄音。“恐ろしいもの”とはいったいどういうことなんだ?
あ…私、そのようなことを申してしまいましたか?
ああ、はっきりと言ってたな
…この絵は、持つ者に災いをもたらすと伝えられております。
かつての所有者様も、この絵を手にしてから火事で命を落としたと聞きます。
それで、この教会が預かることとなったのです。
ほう、そうかい。この絵がねぇ
澄音、お前は怖くないのか?
最初は怖く感じました。でも…なんだか、この絵の猫娘が、
悲しそうで…その気持ちが伝わってくるような気がいたしまして。
ふん、そうかい?俺にはさっぱりわからんな
鷹丸は絵に一瞥をくれた。
しかし、次の瞬間
鷹丸の耳がぴくりと動く。
ん?
澄音、すぐにここから出ろ。
どうしたのですか?
誰かが来る
まぁ・・・わかりました
鷹丸は闇に溶けるように姿を消し、
澄音は言われるがまま小屋を後にした。
だが、その行く先をじっと見つめる一匹の
シスターの影、彼女の目には、
ただならぬ光が宿り、
静かに何かを企んでいる様子――。
かくして、運命の糸は絡まり合い、
物語はさらなる波乱へと進んでいくので
ございます。
さてさて、
その翌日のことでございます。
昼下がりの茶屋にて、
団子を頬張る武三殿の姿が見受けられました
そこへ、のれんを勢いよく
くぐり現れたのは、鷹丸で
ございます。
おう、ここにいたか!
お、おい!
昼間からお前のような者と一緒におったら、わしが怪しまれるではないか!
あん? ここはオレの住む町だぜ。誰も気にしねぇって
鷹丸は鼻で笑い
武三が口に運ぼうとしていた団子を
ひょいと取って、ひとかじり。
武三は眉間にしわを寄せた。
で、何の用だ?
例の絵だがな…お前、あれが災いを招く絵だって知ってたのか?
馬鹿を申すな。そんなものは迷信だ
そうかねぇ?けどよ、その絵の前の持ち主、火事で死んだって話だぜ?
それは単なる事故だ!
災いだなどという話、私は一切信じぬ!
じゃあ、聞くがな。その火事で燃えたはずの絵が、どうして教会にあるんだ?
それは…私にもわからぬことだ。
しかも、あれは偽物だ。なぜ教会が偽物を本物みたいに保管してると思う?
どうして偽物だと断言できるのだ?
おれはな、鼻が利くんだよ
もし火事現場から拾われた代物だったら、
炭や煙の臭いが染み付いてるはずだ。でも、あの絵からは新しい木の枠の臭いしかしなかったぜ
では、本物の絵はやはり火事で燃えてしまったのか…?
どうかな…まぁ、もう少し調べてみる必要がありそうだけど
といい武三の茶を一気に
飲み干す鷹丸でありました。